地方議会と議員報酬のあり方は?

 本日(平成31年 1月13日(日))の下野新聞朝刊に「揺らぐ地方議会—見つからぬ後継候補者」の記
事が掲載されています。
 今年4月に、統一地方選挙が予定されていることもあって、この話題について今後数回にわたって取り上げ
るとのことです。
選挙については、この記事で取り上げられている茂木町では、やっと定数を満たす候補者が揃うものの連続2
回無投票選挙になっており、そのような状況の市町が増えてきているとのことです。
今のところ、幸いに我が野木町においては定数を超える候補者が揃い選挙となっていますが、今後については
予断を許しません。
この記事を読んで、以前にホームページにアップした投稿がありましたので、その投稿について、一部加筆を
行い、改めて投稿します。

 各地方自治体においては、国の「まち・ひと・しごと創生法」の制定を受け、遅くとも今年度中に各自治体
版の「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定するよう努力義務として課されており現在、鋭意取り
組んでいるところです。
わが町を含む大方の自治体では、この10月(平成27年当時)を目途に取り組んでいます。
 この度の地方版総合戦略については、創生本部事務局からの通知の中の「基本的な考え方」の項目のひとつ
として「議会と執行部が車の両輪となって推進することが重要であることから、各地方公共団体の議会におい
ても、地方版総合戦略の策定段階や効果検証の段階において、十分な審議が行われるようにすることが重要で
ある」と記載されていると聞いています。
 この記載にあるように、今般の地方版総合戦略については、議会の役割として、国からの要請に応えるのは
執行部の責任であって、議会はその応答ぶりを監視していればよいといったことですますことができないのは
明らかです。

 ところで、平成23年を初めとする数次にわたる地方自治法の改正により、国の方針として段階的に地方自
治の拡大が図られ、これに伴い執行部と議会の果たすべき役割はますます重要になってきています。
この状況を踏まえた上で、わが町を含む県内町議会の現況を顧みると、議員定数については削減傾向を受けて
一定の適正化が図れた状態になってきているものと考えられます。
 しかしながら、議会の議員構成についてみると、議員定数の削減との直接的な関係はないと思われますが、
野木町議会を例とした場合、定数14名で平均年齢は約65歳であり、農業従事者や事業主ないしは年金受給
者で構成されており、議員の出身世代と職業に偏りがあります。
他の町も同じ状況にあるようですが。

 わが町議会の現状から言えることは、地方創生の対象となるべき世代を代表する議員は皆無ということで
す。

国が押し進める地方分権化と地方自治の拡大の潮流に対応した議会となっているかといえば、大きな乖離が
あり問題と言わざるを得ません。

 人生経験を積んだ年金受給者や農業従事者、事業主が議員であることは決してマイナスではありませんが、
先述したように今般の地方版総合戦略において焦点が当たるべき世代は、出生適齢期世代や子育て世代と言え
ます。
これらの世代を代表する議員が存在しないということは大いに問題ではないでしょうか。

 では何故、若い世代の議員が存在しないのでしょうか。
要因としてはいろいろなことが考えられますが、よく言われるのは若い世代の政治離れです。
しかし、私としては、議会の置かれている根本的な位置づけに問題があるのではないかと考えています。
 根本的な位置づけの問題は何かと言えば、国の方向性である地方分権と地方自治の拡大に対応し得る議会
境になっているかということです。


 具体的に言えば、これから取り上げる議員報酬の位置づけもその一つです。
議員報酬及び費用弁償については、地方自治法第203条において「普通地方公共団体は、その議会の議員に
対し、議員報酬を支給しなければならない。②普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うために要する費
用の弁償を受けることができる。③普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給す
ることができる。④議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければ
ならない。」と規定されています。

 議員の報酬については、各地方公共団体において条例により定めることとされていますが、その額について
は、特に幾らにしなければならないという法律上の規定はありませんので、各市町村等で額を決定し規定する
ことができます。
 したがって、法律上の規定がないことから報酬額については、各市町村等において独自にその額を決めてい
ますが、その額の多寡は、各市町村等の現況の報酬額から推測すると、概ね予算規模(財政力)や人口規模に
準じているように理解できます。

 参考に栃木県内県市町の議員報酬額を掲載します。
    県市町名     報酬額(円/月)    県市町名     報酬額(円/月)
   栃木県       830,000    壬生町      300,000
   宇都宮市      670,000    那珂川町     220,000
   小山市       510,000    野木町      260,000
   足利市       498,000    益子町      255,000
   鹿沼市       420,000    上三川町     255,000
   栃木市       420,000    茂木町      250,000
   佐野市       420,000    那須町      250,000
   真岡市       405,000    市貝町      250,000
   日光市       380,000    芳賀町      250,000
   大田原市      360,000    高根沢町     240,000
   那須塩原市     420,000    塩谷町      233,000
            下野市           350,000    
   さくら市      335,000    
   矢板市       325,000    
   那須烏山市     270,000

   *下野新聞記事より引用

  
 参考から解ることですが、市と町を比べると1市を除いて市のほうが町より多い額となっています。
平均額を比べてみると、市 約413千円、町 約251千円となっています。

 この状況を見て皆さまはどのように思われますか。
この4月に行われた統一地方選挙の際にも話題となりましたが、町選挙への立候補者が少なく、町によっては
無投票選挙になったと公表されていました。
 この状況を生じさせている要因は報酬額の低さにもあるのではないかと、私は思っています。
わが町議会の場合月260,000円であり、県内の町議会の中では高い報酬額になっていますが、この額で
の毎月の手取り額は約190,000〜160,000円位ではないでしょうか。
年金等の他の収入によって違ってくると推測されますが、この金額のうちに納まっていると想われます。

 この手取り額で、働き盛りや子ども養育中の壮年者・若年者世代が会社勤めなどを辞め、議員に転職して家
族を養っていけるでしょうか。
憲法第14条で保障している「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門
地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」という条件を保障していると言えるで
しょうか、甚だ疑問です。
  (新たに追記)
  *下野新聞記事(平成30年11月13日(火)付け)における議員・大学教授の発言
   宇都宮市議:「しっかり議員活動に向き合うには議員に専念できる報酬が必要で、妥当な額」とした上
         で、町議の報酬について「議員の仕事だけで生活は成り立たず、きちんと議員活動に向き
         合えるだろうか」と懸念を示す。
   那珂川町議:「議員報酬だけで生活するのは無理。若い世代が議員になるのを妨げている原因の一つだ
         と考えている」と明かす。
    大学教授:「同じ職責を担いながら、町議の報酬額が低く、小さな町では報酬の安さから議員のなり
         手が少ない。働き盛りの世代が家族を養えるだけの報酬が支払われるべきだ」と説明。
         「近年の厳しい財政状況を受け議員報酬も据え置かれているが、単に報酬を抑えればよい
         というわけではなく、活動に見合った報酬だと市民が納得できるかが大切だ」と指摘して
         いる。

 ここでの私の問題提起は、町議会議員の報酬額が低いからアップすべきであると主張することに主眼がある
のではありません。
冒頭に述べたように、国が押し進める地方分権化と地方自治の拡大の潮流に対応した議会とするためには、
元代表制下の議会として求められる真の役割を果たせる環境を整えることが重要であるということです。
市議会・町議会の果たすべき役割については、地方自治法第96条の議決事件として15事件が規定されてお
り、その規定からすれば市議会議員、町議会議員の果たすべき役割については違いはありません。
また、確かに過去の議会活動においては、町議会議員の位置づけとしてボランティア的な議員活動で十分にそ
の役割を果たしていたと言える時期があったことを認めますが、現状は、市議会議員と何ら変わるところはあ
りません。
町議会議員と言えども専業的な業としての議員活動を求められる時代です。
多様な世代、多様な職業及び性別に係わらずに町議会議員として活動できる環境を整えることが、国が進める
地方分権化と地方自治の活性化にとって必要な条件になるのではないでしょうか。      
その意味で、議員報酬の在り方は地方自治の活性化と充実に繋がる重要課題と認識します。

 当該の人口規模や財政力に準じた市町村個別による従来の報酬額の決定ではなく、すべての市町村において
遍く同じ環境での地方自治の実現に繋がる仕組みを導入すべき時期に来ていることを、併せて具体的な仕組み
として、報酬額のベースとなる一定額を国で手当てし、上積み分は各市町村で手当てするなどの方法を導入す
べきであることを、地方自治の一翼を担う議員として問題提起します。
 確かに地方自治の原則はその自治体による自主運営にありますが、視点を変えてその原則を変革することも
必要です。
 是非、次期の地方自治法の改正時に合わせて地方自治体の枠組み論議に終始することなく、議会の果たすべ
き役割に着目した変革を行うことを、国会議員や県議会議員の皆さまに期待します。