初春に惟うこと!

 今、年末から正月に掛けて読み進めきた本を読み終えたところです。
久しぶりに読んだ小説です。
ここしばらくは経済や政治、ICT等に関する専門的分野の書を主に乱読していたのですが、昨年末に支援者
である知人の紹介で読み始めたものです。
 書名は「江戸を造った男」、著作者は伊東 潤氏です。
 書題から想定される人物像では「江戸時代の幕政に係わった幕閣」と想いがちですが、後の100万都市と
なる江戸の礎を築いた「一商人の一生と生涯に亘る活躍」を著した物語です。
その人物については、学生時代に世界史や日本史を勉学した身でありながらこの小説を読むまで、恥ずかしな
がらまったく知りませんでした。

 ここで、小説の内容について若干説明させていただきます。

人物の名は「河村屋 七兵衛」、後に出家得渡し「河村 瑞賢(ずいけん)」となります。
生誕は元和4年(1618)で、元禄12年(1699)に82歳で没します。

生地は伊勢国度会郡東宮村、現在の三重県に生まれ、一応貧しいながら武士の長男として誕生しています。
13歳の時に父親の勧めで、叔父に連れられ武士身分を捨てて江戸へ上ります。

江戸に出てからは口入屋や商家の手代を務めることになりますが、27歳で材木の仲買人として独立し、その
後40歳の時に歴史上でも有名な「明暦の大火」に際し、木曽ヒノキ等の独占的な取引で財を成します。
小説によるとその時も、単に一身の経済的な利益に拘るのではなく、焼け出された市井の民に対する粥施行を
私財により無償で行っています。

また、市中に放置されている遺骸の処理を幕閣に上書しますが、この時に上書した相手が後によき理解者であ
り事業推進の後援者なる保科肥後守正之です。
皆さまも、保科正之という人物はご存知のこととおもいます。
4代将軍・家綱の後見役で会津藩主であった人物であり、徳川幕府の歴代幕閣の中でも秀でた人物と評されて
います。

この人物から明暦3年(1657)、日本列島の海運航路開発を命じられることとなり、食料不足に悩む巨大都市
・江戸に、奥羽の物産を届ける新たな物流拠点を構築することになります。

さらに延宝2年(1674)、当時の首席老中の稲葉美濃守正則から越後高田藩の灌漑用水工事の助力を要請され
実現したほか、大阪・淀川治水工事や越後高田藩の銀山開発など、江戸という時代を縁の下から支えるインフ
ラ構築事業に死ぬまで邁進します。

商人でありながら2度、ときの将軍徳川綱吉にお目通りしており、死ぬ直前にはその一連の功により武士身分
を下賜されることになります。

 学校で学んだ歴史では、江戸開闢は徳川家康、安定させてのは2代将軍徳川秀忠、3代将軍徳川家光、そし
て5代将軍徳川綱吉、8代将軍 徳川吉宗など、また幕閣としては保科正之、柳沢吉保、松平定信、田沼意次、
水野忠邦、井伊直弼など、幕政に直接関与した武士の名前しか記憶に残っていません。

しかしながら実際は、教えられることはなかったのですが、この小説で描かれているような歴史の裏に隠れた
人物の貢献があってこその300年の江戸幕府だったということが理解できました。

 ところで、現在進行形である野木町総合戦略の推進にあたっては、この小説に著されている時代状況や問題
解決の手法が大いに参考になるのではないかと考えます。

幕閣にあたる執行部が経験知を持ちえない領域の問題解決にあたっては、町民が有するノウハウ・知見、力を
いかに活かしていかれるかが重要であり、そしてその力を生かすためには、幕閣にあたる町政の執行者自身が
危機意識を持ち合わせること、御上(官)という意識を捨てさることが肝要とおもわれます。
加えて、幕閣にあたる町執行部内で共通認識を共有すること、そして課題に向けた議論を大いに行ったうえ
で、適宜に最適な人材をアサインすることが求められるでしょう。
安易にコンサルタントなどの外部力に頼る、丸投げするだけの事業の進め方では、地方創生時代に勝ち残るこ
とは難しいのではないでしょうか。

 同じことは、我われ議会人についてもいえることと思います。
目の前の課題に対処することも重要でしょうが、対処療法的な姿勢にとどまることなく常に先見性を持って対
峙する姿勢が、求められると思います。
また、幕閣制度と同じことが言えますが、議会においても役職とそれに応じた役割・権限が付与されています。
この組織としての働きが十分に機能しないとするならば、組織体としての議会は機能停止に陥ったのと同じこ
とになります。

 読みながら考えさせられたのは、ときの為政者の役割とは、分限者(資産家及び大規模事業家)の在り方
とはなにか、ということです。

文中にも言葉として出てきていますが、
    経 世 済 民
という結論に至りました。

 当然、我われ議会人の役割でもあるのでしょう。

改めて、原点に立ちかえって考える機会となりました。

良い本に出合えたことを感謝しています。