「地方議会議員の厚生年金制度への加入を求める意見書」について思うところ!

 今朝の下野新聞一面に「地方議会議長アンケート 厚生年金 県内7割賛成 なり手不足解消を期待」の記
事及び紙面4ページに関連記事が掲載されていました。
今回のアンケート結果は、共同通信社による調査結果を各新聞社が配信したものと想われますので、詳細に
ついて下野新聞社が知り得る範囲には限度があると推察します。
 この事案については以前にも私の考えを掲載しましたが、今回のこの記事を読んで思うところがありますの
で、取り上げることとします。
 記事を読んで感じた点の幾つかを、次に記載します。
①「県議会と県内25市町議会の議長のうち、約7割が賛成している」について
  県議会については明確ですが、市議会と町議会における状況(数、比率)を区分けし、各々の意見を具体
 的に掲載する必要があると感じます。
  一口に地方議会と言ってもそこには意見の相違があると想われますので、何故意見の相違が生じるのかを
 明らかにする必要があると考えます。
②「全国的に地方議員のなり手不足が深刻化する中、老後の保障により人材確保につながるとの意見が多かっ
 た」について
  なり手不足という現象が県議会、市議会及び町議会の何れで深刻化しているかの分析が必要であり、かつ
 各々の議会が認識する主要な原因は何かを、関連付けて分析する必要があると考えます。
  「なり手不足解消に直結するか不明」という回答に示されているように、要因の分析と対策との関連性が
 読み取れません。
③「地方議会の状況一覧表(P4)」について
  この表において自治体の人口別に議員定数、専業議員、議員報酬、年間会期の違いが記載されています
 が、厚生年金加入との関連においてこの表で何を言い表そうとしているかが、解説されていません。
  前記②との関連もあるかと想われます。
④「③の年間会期」について
  これについては、「住民との意見交換や視察など、議会以外でも精力的に働いている」との元県議の発言
 を紹介していますが、議員の働き方を「年間会期」のみで測ることは、住民に議会活動の内容について誤っ
 た認識を与えると想われます。
  議会活動の公務としても、定例会の外に各種の委員会活動や行政等主催の催事への出席、一般質問等の調
 査・準備等の活動があります。
⑤「若年層は少なく20~30代は男女合わせて約200人しかいない」について
  「特に子育て世代の議員は兼業が難しい。将来にわたって生計を維持できる福利厚生制度は必要だ」とい
 う町議会議長の発言を紹介していますが、この発言は少し省略しすぎているように想われます。
 「兼業が難し」と「将来にわたって生計を維持できる福利厚生制度は必要」との関連性に飛躍があると考え
 ます。
 「兼業が難しい」ということは、将来との関わりというより現在時点での問題であるように理解できるため、
 その原因と対策との相関が弱いように感じられます。
 寧ろ現時点での問題として捉えるならば、報酬の問題が優先されてしかるべきと考えます。

 以上は、読んだ上での記事に関する感慨です。
 この記事においては、厚生年金加入という視点からの取り上げ方になっていますが、もう少し根本的な視点
での取り上げ方を要望します。
言うまでもないことですが、根本的な課題は「議員のなり手不足解消」にあります。
その過程の中で「厚生年金加入」が議論されるべきと考えます。
「厚生年金加入」の議論は議論すべき対象ではあると考えますが、町会議員にある私個人としては、優先順位
は違うと考えています。
そのためにも、「なり手不足」という事象はどの議会において顕著になっているか、またその背景は何かを、
体系的に分析し、対処策を検討すべきと考えます。
私見では、もっとも喫緊な課題となっている議会は町村議会だと推察します。

 その視点での、「論説」を新聞各社に期待したいところです。
地方新聞である下野新聞社に大いに期待します。
 
 — 平成30年4月23日 公開 —
 今朝(12月16日)、TBSテレビのワイドショー番組で「地方議員の厚生年金加入」について取り上げて
いました。
その中で、小泉進次郎議員が激怒し反対しているとの映像がありました。
そのため、過日ホームページに掲載した投稿を読み返してみました。
今回内容を修正編集しましたので、改めて投稿します。

 昨年(平成28年11月)開催の議会全員協議会において、全国町村議会議長会長名及び栃木県町村議会議
長会長名の標記の意見書が議題として提出されました。
その時の議論の結果として、野木町議会の取り扱いとしては「議長預かり」とし、意見書の提出を行わないこ
ととなりました。
 このことについて私の思うところを述べる前に、先ず、意見書が提出されるに至った経緯とその内容につい
て触れておきます。

〇 経緯
  この制度の導入の切っ掛けですが、「自由民主党総務部会地方議員年金検討PT案」として「地方議員へ
 の年金・医療保険の適用に関する新制度案について(案)」として提示されたものであり、これを受けて、
 先の全国町村議会議長会及び栃木県町村議会議長会での審議を経て、この度の意見書を提出することに至っ
 たものとおもわれます。

〇 内容
  全国町村議会議長会長の依頼文書には、「地方議会議員の年金制度廃止以降、国民の幅広い政治参加や議
 員を志す人材確保のため、「地方議会議員の被用者年金制度への加入」に関する要望を町村議会議長全国
 大会や都道府県会長会において決定し、政府・国会に働きかけを行うとともに、あらゆる機会をとらえ要請
 活動を展開しております。」と記述されています。
 
 以上の経緯と内容を踏まえた上で、私の思うところを述べさせていただきます。
一部の考えについては、議会全員協議会の場において意見として発言したものを含んでいます。

〇 経緯に関連して
  皆様もご存知のように現在、国会議員や地方議会議員についての年金制度の適用は一切ありません。
 ここに至るまでには、国民の声に押されて国会議員及び地方議会議員の議員年金を廃止した、そう遠くない
 過去の経緯があるわけです。
  その廃止に当たっては、地方議会議員による年金制度の廃止論議の前に、国会議員による廃止論議があ
 り国会、地方議会共に廃止することが(直接・間接に係わらず)立法化されたと理解します。
 どのような理由があったかは別としても、一旦自らが廃止した制度を、あらためて形を変えて制度化する
 ことに問題はないのか、又住民の意思に沿ったものであるのか、という疑問です。

〇 内容等に関連して
① 意見書は、「昨年実施された統一地方選挙において、町村では議員への立候補が減少し、無投票当選が増
 加するなど、住民の関心の低下や地方議会議員のなり手不足が大きな問題となっている。こうした中、地方
 議会議員の年金制度を時代に相応しいものにすることが、議員を志す新たな人材確保につながっていくと考
 える。」と、その制度の意義と趣旨を述べています。
  しかしながら、地方議会議員のなり手不足を解消する方法として、時代に相応しい年金制度を創設する
 こ
とが優先されるべきことなのか、町村議会議員の立場からは疑問と感じざるをえません
  先に、2015年7月13日公開済み「地方議会と議員報酬のあり方は?」で述べさせていただいたと
 ころですが、町村議会議員のなり手不足を解消する方法としては、年金制度を創設することより議員報酬の
 あり方を議論することを、優先すべきと考えるところです。

  以下に、一部を参考に抜粋し掲載します。 

― 抜粋 —

  わが町議会の現状から言えることは、地方創生の対象となるべき世代を代表する議員は皆無ということで
 す。
 国が押し進める地方分権化と地方自治の拡大の潮流に対応した議会となっているかといえば、大きな乖離
 があり問題と言わざるを得ません。
 人生経験を積んだ年金受給者や農業従事者、事業主が議員であることは決してマイナスではありませんが、
 先述したように今般の地方版総合戦略において焦点が当たるべき世代は、出生適齢期世代や子育て世代と言
 えます。
 これらの世代を代表する議員が存在しないということは大いに問題ではないでしょうか。
 では何故、若い世代の議員が存在しないのでしょうか。
 要因としてはいろいろなことが考えられますが、よく言われるのは若い世代の政治離れです。
 しかし、私としては、議会の置かれている根本的な位置づけに問題があるのではないかと考えています。
 根本的な位置づけの問題は何かと言えば、国の方向性である地方分権と地方自治の拡大に対応し得る議会環
 境になっているかということです。
  具体的に言えば、これから取り上げる議員報酬の位置づけもその一つです。
 議員報酬及び費用弁償については、地方自治法第203条において「普通地方公共団体は、その議会の議員
 に対し、議員報酬を支給しなければならない。②普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うために要す
 る費用の弁償を受けることができる。③普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を
 支給することができる。④議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定め
 なければならない。」と規定されています。
 議員の報酬については、各地方公共団体において条例により定めることとされていますが、その額について
 は、特に幾らにしなければならないという法律上の規定はありませんので、各市町村等で額を決定し規定す
 ることができます(条例の制定が必要です)。
 したがって、法律上の規定がないことから報酬額については、各市町村等において独自にその額を決めてい
 ますが、その額の多寡は、各市町村等の現況の報酬額から推測すると、概ね予算規模(財政力)や人口規
 模
に準じているように理解できます。

  参考に栃木県内県市町の議員報酬額を掲載します。
   県市町名     報酬額(円/月)    県市町名     報酬額(円/月)
   栃木県       830,000    壬生町      300,000
   宇都宮市      670,000    那珂川町     300,000
   小山市       510,000    野木町      260,000
   足利市       500,000    益子町      255,000
   鹿沼市       420,000    上三川町     255,000
   栃木市       420,000    茂木町      250,000
   佐野市       420,000    那須町      250,000
   真岡市       405,000    市貝町      250,000
   日光市       380,000    芳賀町      250,000
   大田原市      360,000    高根沢町     240,000
   那須塩原市     355,000    塩谷町      233,000
            下野市           350,000    
   さくら市      335,000    
   矢板市       325,000    
   那須烏山市     270,000

   *都道府県・市区町村ランキングサイトより引用

   ~ 省略 ~
 ここでの私の問題提起は、町議会議員の報酬額が低いからアップすべきであると主張することにあるの
 では
ありません。
 冒頭に述べたように、国が押し進める地方分権化と地方自治の拡大の潮流に対応した議会とするためには、
 二元代表制下の議会として求められる真の役割を果たせる環境を整えることが重要であるということです。
 市議会・町議会の果たすべき役割については、地方自治法第96条の議決事件として15事件が規定されて
 おり、その規定からすれば市議会議員、町議会議員の果たすべき役割については違いはありません。
  また、確かに過去の議会活動においては、町議会議員の位置づけとしてボランティア的な議員活動で十分
 にその役割を果たしていたと言える時期があったことを認めますが、現状は、市議会議員と何ら変わるとこ
 ろはありません。
 町議会議員と言えども専業的な業としての議員活動を求められる時代です。
 多様な世代、多様な職業及び性別に係わらずに町議会議員として活動できる環境を整えることが、国が進
 め
る地方分権化と地方自治の活性化にとって必要な条件になるのではないでしょうか。      
 その意味で、議員報酬の在り方は地方自治の活性化と充実に繋がる重要課題と認識します。
                                        以 上

② 地方議会議員のなり手不足を解消する方法として、時代に相応しい年金制度を創設することも一方法であ
 ることを否定するものではありません。
  しかし、町村議会議員のなり手にとっては、年金の有無の前に報酬額が生活できる金額であるかどうかの
 方が、議員を志すときにおいて判断材料として大きなウエイトを占めると思います。
  また、今般の厚生年金制度への加入については、地方議会議員を対象とする制度の提案となっていますが、
 もしこの制度が導入されることとなった暁には将来、国会議員への対象範囲の拡大が論議されることにつな
 がるように想われてなりません。
  本当に、地方議会議員を巡る地方自治改革の視点から議論された結果なのか、はなはだ疑問に感じるとこ
 ろです。