県町村議会議長会主催の議員研修会に参加!

 令和4年11月22日(火)に栃木県総合文化センターサブホールにて、栃木県町村議会議員研修会
が開催されましたので、県内の町議会議員とともに参加しました。
 日程は、13:30に開会宣言があり、続いて会長あいさつが行われ、その後、大正大学社会共生学
部公共政策学科の江藤 俊昭教授によるテーマ「議員報酬・定数・政務活動費を考える意義と手法 ―
「住民自治の根幹」としての議会の作動 ―」の講演が行われました。
 教授は、大学の教授のほか全国町村議会議長会「議員報酬等のあり方に関する研究会」委員長、総務
省「町村議会あり方に関する研究会委員、内閣府「第29次・第30次地方制度調査会」委員、等を歴
任し、現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、
山陽小野田市)、地方自治研究機構評議員などに就任されています。


 講演の概要・趣旨を紹介しますと、以下の通りです。
〇いただいたテーマ:「議会改革と議員定数・報酬等・政務活動費の充実と手続き」

〇私(教授)の視点:
➀議員にとって大事だからだけではなく、住民自治の問題
②「議員のなり手不足」問題には、報酬等は重要だが、報酬を上げるだけでは解決しないというより、
住民が納得しないと報酬増額によって議会・議員は批判を浴びる
③報酬等を総合的に考える

〇議会からの政策サイクル:
➀議会からの政策サイクルの発見
・三重県議会→新しい政策サイクル:決議等による首長等の縛り
・会津若松市議会→議会からの政策形成サイクル:住民を起点に政策開発(住民との意見交換会での意
見をもとに政策提言)
・飯田市議会→もちづくり委員会との協働による政策サイクル(住民との意見交換会での意見をもとに
政策提言、および議会による行政評価から決算審議・予算要望・予算審議)
②政策サイクル全体にめぐらされる住民参加
・議会報告会・意見交換会
・参考人・公聴会
・専門的知見の活用
・市民フリースピーチ(犬山市議会)
③議会からの政策サイクルの特徴 ー 「議会からの」を考える
・住民目線⇔執行の論理
・合議体⇔執行の縦割り行政
・少ない資源⇔執行の豊富な資源(財政・人事)→総合計画、「隙間(ニッチ)」政策
④新たな条件整備
・基本的視点
ⅰ 行政改革の論理(効率性重視)と議会改革の論理(地域民主主義の実現)は異なる
ⅱ   議会改革の本史への突入を意識する(住民自治の根幹としての議会)
・定数:討議空間としての議会=討議できる人数
・報酬:活動量に則した議員報酬
・議会(事務)局:新たな総務・議事とともに、アウトリーチ(対住民、対首長)とその活動指針、議
会事務局のミッション・計画等
・議会図書館:物置ではない、地域における重要争点は議会図書室に(議事録、視察報告書、陳情請願
等)、公共図書館との連携

〇議員報酬・定数等条件整備を考える基本的視点
・行政改革の論理(効率性重視)と議会改革の論理(地域民主主義の実現)の総意
・現職だけではなく将来の議員が活動しやすくする条件
・定数と報酬の論理の総意
・定数が少ない場合は増加させることが困難な場合は住民を協働
・専門家の支援を受け付けつつ住民と考える場の必要性、などを提起し、それぞれの自治体・議会で自
らのポリシーを明確にすること

〇報酬の算定方式:原価方式がベター:新たな原価方式とは
〈成果方式〉地域経営に有用な活動をした成果によって報酬額を算定
      *問題点:その方式の算定方法は確立しておらず、それと報酬とを直接関連づけることは困難
〈類似(比較)方式〉他の議会(類似団体、近隣団体)を参考
         *問題点:参考になるが、報酬額の根拠にはならない。
〈原価(蓄積)方式〉議員の活動量と長の活動量江尾比較し、その割合を基に算定
         *問題点:活動量(時間・日数)が長ければよいわけではなく中身が問われるし、説明
              責任を果たさなければ、信頼されない。
         *これがベター(町村議会モデル(昭和53年)

〇新たな原価方式:「議員の活動量と長の活動量を比較し、その割合を基に算定」を基本としつつ、以下の
         2つの要素を強調
➀「活動内容を踏まえた原価方式」→原価方式は活動量を素材に議員報酬を算出するが、単なる量ではなく
                 活動内容を示すことを含んでいる。
②「改革先行型」と「改革意欲型」→現行の活動からの関さんであるが、逆に将来にわたる議会・議員活動
                 からの期待値としても設定
③透明性の強調→昭和31年報告書では数値化にあたって議案の精読や住民からの意見聴取など、「表(お
        もて)に現れない活動量」を2分の1とするなどの技術を用いたが、令和4年報告書では
        活動量すべてを算出(表にあらわしている)
*新しい原価方式は、成果は数値化できないが成果と関連する内容を説明する素材とすることで成果方式の
要素を、そして単純に類似団体の数値を参照するのではなく実際に先駆的な改革を行っている議会の条件を
参考とすることで比較の要素を、組み込んでいる。活動量だけを原価方式の算出要素にしているわけではな
い。
*第32次地方制度調査会答申には「議員報酬については、主として小規模市町村において、それだけでは
生計を維持できないほどの低水準であり、そのことが議員のなり手不足の要因であるとの議論がある」との
指摘がある。そのうえで町村議会モデル(昭和53年、改訂平成31年)とは明示していないが、その原価
方式が例示されている。同意できる。
 ただし、議員報酬を議員のなり手不足とだけで理解するのは失当である。議会力アップに連動し、そのこ
とが議会・議員の魅力を住民に伝える。それが議員報酬とつながる論点も必要だ。

〇総合的視点からの定数議論
〈想定できる基準〉
・論点1:討議できる人数として一常任委員会につき少なくとも7,8人を定数基準としたい(予算決算等
の常任委員会、広報公聴等の常任委員会等を除く)。これに委員会数を乗ずる数が定数となる。議論できる
人数として6人は下らないのではないだろうか。「少なくとも」は、すでに指摘した多様性と関係がある。
・論点2:その際、もう1つの議会の存在意義である多様性を重視する。地区、性別、年齢、障がい者、職
業などを考慮する。その際、議会への住民参加の充実による補完は想定すべきである。
・論点3:委員会数の確定(財政規模、行政組織数等を考慮)、常任委員会の複数所属(不可能と言えない
までも慎重に)、議長のカウントの仕方(奇数説)などを議論する。
*ここで強調したいのは、議員報酬と議員定数は別の論理であることである。とはいえ、議会を充実させる
ために、両者(および政務活動費)は住民参加のあり方等を同時に検討することは必要である。

〇政務活動費の課題
 政務活動費の不正が頻繁に報道される(まさに「生活費」だ)。住民の不信を払拭するために、領収書の
添付とその公開が広がっている。それ以上に説明責任を果たすことが必要だ。公開は活動を説明したに過ぎ
ない。本を買った、視察をした。住民からすれば、「だから何」ということになる。それを超えて、活用し
たことで議会力・議員力がアップしたかを自己評価でもよいから説明する必要がある。
 視察を例にとれば、
➀当該自治体の課題の明確化とその解決に向けて取り組んだ地域(成功事例・失敗事例)の選定、
②視察地域から活用できる施策の提示、
③質問や所管事務調査を行う予定、
という三点セットが少なくとも必要だ。

〇議員のなり手不足の現状と課題
〈なぜ問題か:なり手不足問題:民主主義の機能不全〉
・議会・議員の正統性に疑問符が付けられる。住民自治の空洞化も促す。
➀政策競争の欠如。地方分権改革、地方財政危機にともない地方行政とともに地方政治が重要となっている。
地方政治には、政策競争が不可欠である。無投票は、その重要な機会を奪う。
②有権者意識の危機。有権者にとって政策型選挙ができず、また議員の4年間の活動の評価ができない。住
民の主権者意識が侵食される。
③議会の危機。無投票当選は、性別(男性優位)、年齢(高年齢化)等の偏りを促す。議会の存在意義は、
多様性を踏まえた公開と討議にある。存在意義であるその多様性を侵害する。
〈なり手不足の要因〉
・ならない要因:議会・議員の魅力が伝わらない、条件の悪さ(低い議員報酬等)
・なれない要因:地域力の低下、法律による縛り(兼業禁止など)
〈解消の正攻法〉
住民の福祉の向上(地域力アップ)→議会・議員の魅力の周知→報酬増額等の条件整備〔→兼業禁止の緩
和・議員の位置付けの明確化・厚生年金加入の検討〕
〈解消の正攻法の豊富化〉
➀新しい層(属性)の開拓(多様性の充実):女性・若者(会議規則改正、オンライン活用、ハラスメン
ト防止(政治倫理)条例制定等)
②条件整備:新しい原価方式の導入(報酬増額)、政務活動費の充実等
〈解消方途の誤解〉
・住民への説明なき議員報酬増額:住民から反発
・定数削減:当選ラインを引き上げ出にくくする→負の連鎖
・恒常的な夜間議会:議会力をダウン
・住民総会・2つのモデル:理事を選出(議会と同様な選出)、首長主導
〈日々の努力が問われる〉
住民と歩む議会は立候補者の掘り起こしにも役立っている。住民が参加する会津若松市議会の議会制度検
討委員会や、飯綱町議会の政策サポーター、議会だよりモニターは有効だ。

◆感想等
 講演を聴いて私として、以下の点については共感します。
・議員にとって大事だからだけではなく、住民自治の問題
・行政改革の論理(効率性重視)と議会改革の論理(地域民主主義の実現)は異なる。
・現職だけではなく将来の議員が活動しやすくする条件
・政策サイクル全体にめぐらされる住民参加
・視察をした。住民からすれば、「だから何」ということになる。それを超えて、活用し
 たことで議会力・議員力がアップしたかを自己評価でもよいから説明する必要がある。

 しかしながら、次の点については、釈然としない印象を持ちました。
・「議員のなり手不足」問題には、報酬等は重要だが、報酬を上げるだけでは解決しないというより、住
 民が納得しないと報酬増額によって議会・議員は批判を浴びる。

というのは、この論法でいくと、議会改革を進め住民が評価・納得できるレベルの議会に到達するまでは
議員報酬アップはするべきではない(むしろできない)という意味のように受け取れることです。
 このレベルの議会に改革するためにも若く有為な人材の登場が待たれるところですが、なり手不足の要
因(ならない要因:議会・議員の魅力が伝わらない、条件の悪さ(低い議員報酬等))として挙げられて
いる状況では、それを期待することには無理があります。これでは卵が先か鶏が先かの論法に当てはまり
解決策が見えないように感じられます。
 私としては、「住民が納得しないと報酬増額によって議会・議員は批判を浴びる」を覚悟のうえで、ま
ずは報酬額の改善を図るべきと考えます。そして、住民から見て報酬額に見合う議会活動になっているか
どうかを評価していただき忌憚のない指摘と批判を仰いで議会改革に繋げていくことが現実的な方策と捉
えます。
 いずれにしましても、議会自体に自発的な改革力が求められることが重要であることは間違いありませ
ん。今後も議会一丸となって「現職だけではなく将来の議員が活動しやすくする条件」の環境整備に取り
組んでいきたいと思います。

江藤教授講演模様